尾瀬燧ヶ岳山行記録



 2004年10月23日土曜日の朝、福島県側御池駐車場の車内で目覚めると雨。帰ろうかと思いゲートまで車を動かしたが、千円札専用で駐車場から出られない。売店が開くまで待つつもりで、ラジオの天気予報を聞いていると、関東北部山沿いは、朝のうち雨が残る程度だという。雨も小降りになってきたので、思い切って身支度を始めた。

 沼山峠行きのバスに乗ろうとしたら、今度は530円の小銭が必要なので売店が開いてからと言われたが、発車時刻になっても売店は開かない。満席近くになり「つり銭ができるだろう」とのことで乗せてもらえる。また雨が降りだしてきたが、ここまでやりとりをしたら、もう引き返せない。

 沼山峠着。そのまま尾瀬沼に出て、長英新道登山口へ向かう。

 コースタイム約2:30の燧ヶ岳への登山を開始したが、登山道はぬかるみで靴が泥になる。中腹から雲の中に入り小雨になるが、少し待っていると雲が上昇し晴れてくるので、雲の動きにあわせてゆっくりと登ることにする。さすがに上部残り1時間くらいからは雲がとれず、小雨が雪に変わり引き返したくなったが、あと少しと山頂をめざす。予定時刻を1時間以上遅れて着いた山頂は、吹雪で何も見えず、行動食のカステラをかじって退散する。

 下山は旧道から。新道との分岐点から大きな岩場を急降し、約1:00で尾瀬沼に着いた。このコースはぬかるみがないので、岩場下山の要領をつかめば、かなり早い。沼畔の木道を約1時間歩き、ビジターセンターに着くと「最終バスに、今から急げば乗れるかもしれない」と言われ、沼山峠へ急ぐことにする。途中で、入山者数計の記録を取るためにと、先ほどの案内人が追いついてきて「急がれたほうがいい」と言う。沼山峠の標高は湿原より高く、急ぎ足でも撮影機材が重いためか意外にかかり、結局7分差で乗り遅れる。静まり返ったバスターミナルは、すでに日も暮れ薄暗くなっていた。

 しかたなく40分の引き返しで、長蔵小屋へ向かうことにした。懐中電灯で足元を照らし、熊に出くわさないように大声で独り言をいいながら、大江湿原へ下る。

 長蔵小屋の明かりがはるかに見える頃、木道を歩いていたら突然、地鳴りがしてきた。すごい重低音が湿原に響き渡る。熊が走ってきたか?ジェット機か?と空を見上げ立ち止まると、足元が揺れている。 地震だ!。しだいに揺れが大きくなり、木道はカタカタと音をたてて波打ってきたので、地割れが心配になり二本の木道に両足をまたいで踏ん張る。

 長蔵小屋に着くと、風呂の終了まであと10分で食事も出せるとのこと。急いで風呂に入り独り占め気分でいたら、2回目の地震であわてて風呂から飛び出し食堂へ。中越地方で大きな地震があり新幹線が脱線したらしく、ここも新潟・福島・群馬の県境だから、震度5くらいではないかとのこと。新潟が近いので家族の安否を心配している人がいた。9時の消灯までストーブのある談話室で、地酒のワンカップを飲みながら体をほぐす。尾瀬の環境について議論している人が多かった。足腰が痛たく疲れていたので、翌日は雨になり帰ることを、半ば期待して床についた。

 10月24日日曜日の朝、窓の外を見ると快晴である。雲ひとつない。外に出ると燧ヶ岳が朝焼けで赤く染まり、湿原は霧と霜で白くなっている。6:30からの食事をすませ出発。沼に映る燧ヶ岳を撮影してから、凍った木道を大江湿原に戻り、黄色の唐松と湿原も撮影し、昨日下山してきた旧道登山口へ向かう。

 体調を切り替えて、いよいよ岩場の急登である。息を切らせ途中でツララをかじったりしながら、約1:30で新道との分岐点に取り付く。朝陽に輝く尾瀬沼が眼下に見おろせる。早くは登れたが足はガタガタである。

 そこから俎(まないた)くら山頂まで20分。さらに残雪で滑りながら双耳峰の鞍部に下り、燧ヶ岳本峰に登りかえすと、目の前に雄大な尾瀬が原が、キツネ色に広がり絶景である。かなりの枚数を撮影し、長蔵小屋でたのんだ弁当を食べる。左手には日光白根山がひときわ目を引き、右手には三条の滝の谷が紅葉し、その先に奥只見湖が青く見えた。

 下山コースを決めるため山頂から眺めると、沼山峠を経由しても直接御池に下山しても、大差はなさそうだ。地図を見ると御池まで2:10とあり、今日はバスに乗り遅れることはできないので、御池コースをとる。下山をはじめると御池コースは北斜面のため日陰になっていて、岩場が凍りつきとても歩きづらい。途中の熊沢田代で撮影し、再びぬかるみの樹林帯を下り、御池駐車場に着。

 しばらく車内で仮眠をとったあと、桧枝岐村に下り小豆温泉へ。ここは20年前に自転車で沼山峠に登った時、寒さで動けなくなり、通りがかりの車に連れてきてもらった温泉である。今はその頃のひなびた面影もなく、ジャグジー風呂などにかわっていた。

一路東京へ。

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